英単語の覚え方:認知心理学から分かる唯一無二の暗記法
Jun 30, 2024読了目安時間:13分
この記事の要点
- 単語は言語学習において、コミュニケーション力を促進する最も重要な要素である。
- 記憶は反復と適切な間隔で強化され、エビングハウスの忘却曲線やSRS(スペース・リピティション・システム)に基づく方法が効果的。
- SRS理論を応用したAnkiアプリは、シンプルな機能とカスタマイズ性、コミュニティサポートで多くの言語学習者に支持されている。
- Ankiの課題には、思い出せなかった時の失望、新単語へのバイアス、毎日の継続の難しさがあるが、適切な対応で克服可能。
- Ankiのメリットには、リアルに単語を使える喜び、学習の進捗の視覚化、比較的に楽な勉強法があり、言語習得者にとって効果的なツールである。
目次
英単語アプリ、Ankiにおける課題:Anki活動はもちろん努力が必要
英単語の覚え方はたった一つ?記憶を定着させる最強の方法
記憶と言語学習の密接な関連性
シンプルにいうと、英語を構成する要素は文法と英単語、そして発音になります。その中で、特に重要な役割を果たすのは英単語です。なぜなら、文法は割とすぐに吸収することができますし、発音が完璧でなくてもコミュニケーションはできます。しかし逆に知っている英単語が少なければ伝えたいことを伝えられず、スムーズなコミュニケーションが難しくなります。
さて、英単語は底のないブラックホールなので、常に習得し続けなければなりません。専門的に言うと、まずボキャブラリー(英単語)は2種類に分けられます。1つ目は「アクティブ ボキャブラリー」、つまりいつでも思い出せる英単語、そして2つ目は知っているけれどすぐには思い出しにくい「パッシブ ボキャブラリー」です。英単語の暗記は、パッシブボキャブラリーをPDCAサイクルを回すかのように徐々にアクティブボキャブラリーに引き上げていくのがポイントになります。
ではどのようにその「引き上げ」を行っていくか?というところで、巷では「英単語の覚え方」がたくさん紹介されていますが、中には必要以上に複雑なものも見かけます。しかし記憶のメカニズムについての研究(認知心理学)を読めば、確実に英単語の記憶を定着させる方法が分かりますので、次のパートで解説します。
人間はどうやって物事を覚えるか:認知心理学からわかること
人間の記憶は、「反復」と「適切な間隔」によって強化されることが研究で示されています。エビングハウスの「忘却曲線」に基づく研究では、記憶の保持と忘却のパターンが明らかにされました。
記憶の定着には、情報を何度も繰り返し思い出すことが効果的です。心理学者Cepedaらの研究「Spacing Effects in Learning: A Temporal Ridgeline of Optimal Retention」でも、間隔を空けて復習する「間隔学習」の重要性が示されています。これにより、脳は情報を長期記憶として保存しやすくなります。記憶法の一つとして知られるSRS(スペース・リピティション・システム)はこの原理を応用しており、忘れかけたタイミングで情報を再提示することで、記憶の効果を最大化します。
このように記憶を定着させる仕組みは、実はとてもシンプルなのです。かつての言語学習者たちは皆、アナログでフラッシュカードを何時間もかけて大量に作り、適当に間隔を空けて復習していた、と思うと想像するだけで疲れますよね。では、現在のテクノロジーを使うことで、英単語の記憶の定着がどれだけ簡単になったかを見てみましょう。
英単語の覚え方におけるSRSアプリの魅力
英単語の暗記法も携帯の技術革新のおかげで、アナログの単語帳からアプリへと大きく進化しました。その中でSRS理論を応用したアプリもいくつか開発されましたが、全世界のほとんどの言語学習オタクが愛用しているのは明らかに「Anki」というアプリになります。極めてシンプルで、ずっと愛され続けているところが顕著です。正直言って、使い始めると他の言語アプリの意義が疑問に思ってきます・・・(あくまでも著者の偏見ですので許してください 笑)
Ankiアプリのすごいところは単純に余計な機能を設けないことで、学習者の学習を混乱させないことです。また、自分でカードを作成できるため、学習内容を自由にカスタマイズすることが可能です。さらにAnkiを活用するコミュニティがアツいので、他のユーザーのデッキの利用が可能ですし、日本語のチュートリアルも豊富にありますので、戸惑う事なく早いペースで使いこなせるようになります。また、学習の進捗も細かく追跡できるためモチベーションを維持しやすい、PCやスマホなど複数のデバイスで同期できる、多言語対応でさまざまな言語学習に対応しているなど多くの点でメリットがあります。
CHADSチームも数年このAnkiを毎日地道に実践しているのですが、そこで分かったAnki活動の課題と利点をシェアしますね。皆さんにAnkiの使い方を現実的かつ包括的にイメージしていただき、ぜひモチベーションを高めていただきたいと思います。
英単語アプリ、Ankiにおける課題:Anki活動はもちろん努力が必要
ではまずは弱点と思われるAnkiの側面から解説していきましょう。
思い出せなかった時の失望
SRSアプリを利用して英単語を覚えたと思ったのに、必要なタイミングでいざ思い出そうと思っても出てこないことがよくあります。単純に記憶の定着に個人差があるのと、当然ですがAnkiを実践したからといって、必ず全てがうまくいくという訳ではありません。ストレスや疲労、学習環境なども記憶に影響を与えます。そしてこの現象が起きると学習者は失望し、「本当に効果あるのかな」、「何のためにやってんだろう」などと悲観的になり、モチベーションの低下に繋がります。このような時はシンプルに、できなかった自分を受け入れ、そして次こそ思い出せるように頑張ろう、と肯定的に捉えるしかありません。
最近覚えた英単語を必要以上に優先してしまう
新しい単語に対するバイアスは「新奇性効果」(新しいもの対して一時的に注意を引かれたり、興味を持ったりする現象)と呼ばれ、学習者が過度に使用しようとする傾向です。これは「利用可能性ヒューリスティック」という心理学の理論でも説明されています。新しい情報は短期間で忘れられやすいものの、直近で学んだ情報はまだ記憶に残っているため、他の重要な単語の学習を妨げたり、自然な使い方から逸脱することがあります。
具体例を挙げると、例えば直近で「阻害する」という言葉を習った場合、そのような意味を表現したい時に、本当はもっとその状況に適している「妨げる」という単語とどちらを使用するか競うことになります。要は、「阻害する」を使った場合、「最近習った単語を使えた!」という快感や達成感が得られるので、そこにバイアスがかかってしまいます。この問題点に関しては、シンプルに「この言葉は本当に今最適な言葉なのか?」と自分に問いかけ、出来るだけバイアスをかけずに自然な言葉を選択することです。尚、どちらがより自然な言葉かどうかの判断は大量の言語インプットをすること、あるいはネイティブスピーカーよりフィードバックを受けることによってしかわからないことを念頭に置いておきましょう。
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毎日必ず時間を割かないといけない
SRSアプリで新しい単語を定着させる活動は地道で、毎日継続することが求められます。この「サボっちゃいけない」という圧力は、一部の学習者にとって大きなストレスとなり、学習の楽しさが減少し、モチベーションが低下することがあります。
さらに、1日Anki活動をサボってしまうと、その翌日にサボった分の英単語が蓄積されるので2日分のAnkiを完了しなければならず、それもプレッシャーを与えるので、苦手な人はいるでしょう。この問題点に関しては2つのタイプに分かれると思います。Ankiが本当に苦手でやりたくない人で、そのAnki活動自体がイマージョン継続の支障になるのであれば、控えてもいいと思います。逆にAnkiをぜひ活用したいと思うタイプの人は、この「毎日やる」ことは必須であることを受け入れて、1日のスケジュールの中に上手く取り入れて実践しましょう。
英単語アプリ、Ankiの魅力・メリット
Ankiってなんだか面倒そうだな〜と思わせたかもしれませんが、ぜひ最後まで読み続けてください。今からメリットに触れますので・・・言語習得オタクが本当にAnkiを好きになる理由はシンプルにメリットが大幅にデメリットを上回るためです。そして即効性が高いためです。
Ankiで覚えた単語にリアルに遭遇した時の喜び
Ankiを使用することで全ての単語が定着するわけではありませんが、日々の努力と継続により、多くの英単語が確実に記憶に定着します。定着した英単語に実際に遭遇し、理解できる瞬間は学習者に大きな喜びをもたらし、自己効力感を向上させます。
実際私も、最近覚えた単語が視聴するコンテンツに現れ、理解できた時には本当にテンションが上がります。イマージョンをしているとそういったタイミングが頻繁にあるので、Ankiを実践していて本当によかった!と思うことがよくあります。
学習の進捗を感じることの重要性
学習の進捗を確認できるSRSアプリを使用することで、学習者は「私、勉強してるんだ!」という感覚を持つことができ、モチベーションが維持されやすくなります。学習の進捗を視覚的化は、継続という点において非常に重要なのです。イマージョン学習法の実践の際に、多くの学習者(CHADSのお客様にも当然いらっしゃいます)は「イマージョンの効果っていつ実感できるのかなぁ?」や「イマージョンを実践して効果を感じなかったら他の方法を試そう‥‥」と思うことがあるでしょう。言語の習得は感覚的な要素が大きいので、明確化されていないと挫折しやすいのです。
Anki活動はそういった不安を和らげる方法の一つです。抽象的な「イマージョン」活動の継続をサポートする意味でも、進捗の視覚化ができるAnkiアプリの併用は効果的と言えるでしょう。
努力は必要だけど、比較的に楽な勉強法
先ほどAnkiは努力が必要と述べましたが、そうはいっても皆さんが高校生や大学生だった時(まだSRSアプリが登場していない時代)と比較して100倍は楽な作業になっていると思います。
アプリを出して「よっしゃ5分頑張るぞ!今日はどれぐらいのスピードでクリアできるかな」といったゲーム感覚でできますし、しかも研究によって実際に効果があると分かっているので、「ゲームなのに効果がある」と思うと本当にテンションが上がります。
Ankiをやるべきかどうか
もう一度言います。Ankiアプリは効果があります
「Ankiは効果無し」、や「Ankiでなく自然と新単語を吸収しよう」といったセンセーショナルなYoutube動画が多いと思うので混乱しやすいと思いますが、Ankiアプリは認知心理学に基づいて設計されているので、少なくともそれなりの効果はあると信じていいと思います。
やるべきかどうかは「効果があるかどうか」で決めるのでなく、言語習得者の「性格に合っているかどうか」という軸で決めてもいいと思います。
Ankiが不向きな場合
5分以上集中できない時の対処法
1日のAnki時間が15分〜20分だと考えた時に、それを3~5回に分散して行う方法があります。例えば、朝の電車で5分、お昼休みの前後に5分、夜の電車で5分といった具合です。
また、最も面倒に感じるタスクを朝一番に完了するという方法もあります。これにより、一日の始まりに重要な学習を済ませ、残りの時間を他の活動に集中することができます。
どうしてもAnkiをしたくない場合
そういった方は、コンテンツの文脈で覚えていくスタイルになります。方法は、同じ動画を繰り返し何度か視聴することで、英単語を浸透させていきます。もう一つは同じテーマのコンテンツをたくさん視聴すること。そのテーマでよく使われる単語が何度も出てきたり、様々な切り口で似たような英単語に出会える確率が高まるので、文脈の中で自然と記憶に残りやすくなると考えられます。
まとめ
英単語の覚え方は様々な本で紹介されていますし、独創的な方法も存在しますが、やはり記憶の定着の秘訣は、認知心理学による「SRS」です。情報が多すぎるゆえ惑わされやすいですが、皆さんにはぜひシンプルにSRSに基づいたツールをおすすめしたいと思います。「Anki」は、言語学習オタクに最も愛用されている王道のアプリですが、使うべきかどうかは「効果」に対する疑いでなく、学習者の「性格」に最もフィットする方法かどうかなので、Ankiがフィットしていなければ、他の方法で英単語を定着させましょう。
CHADSとは
私たちCHADSは、英語コミュニケーション習得ツールを提供するスタートアップ企業であり、第二言語として英語を習得のために必要な取り組み方を解説したビデオ学習コースや効率的な学習法を提供しています。
私たちのアプローチは、
- イマージョン(英語のインプット法)
- アウトプットのキャリブレーション(インプットとアウトプットのバランス)
- ソーシャルダイナミクス(英語を使ったコミュニケーション法)
の3つの柱に基づいています。
私たちは英語が自分の思い描く生活のための効果的で実用的なツールとなるように、学問の枠を超えて言語を理解することを中心に取り組みます。